2010年3月1日月曜日

ビュット・ショーモン公園


2年前、私のフランス最後の日は、パリのビュット・ショーモン公園にいた。
泊めてもらっていた友人の家が、この公園のすぐ隣だったからだ。空港へ行くまでの時間をつぶすため、ひとりでこの公園をぶらぶら散歩していると、高台の上で結婚式の写真撮影をやっていた。
幸せそうな2人を微笑ましく見ていると、携帯が鳴った。1ヶ月前、モンペリエの近くのネビアンという小さな村に泊めてもらった時の友人からだった。「今日、フランスを発つと聞いて…。来てくれてありがとう。本当に楽しかったよ。元気で!」という暖かい言葉だった。
帰ろうとして高台から降りて行くと、聾唖の男の子が近づいてきて、寄付をしてくれと手話でせがんできた。
私はもう、数時間後には日本に発つので、現金はほとんど持っていなかった。
何度断って逃げようとしても、しつこく男の子はついてきた。
たぶん、日本人はお金を持っていると思われているのだろう。
私は小銭入れを出して、「ほら、これだけしか持ってないから」と数十サンチーム(*)ほどの小銭を見せた。〈*フランスではセントをサンチームという。(100サンチーム=1ユーロ)〉
男の子は、「そんだけ?ちぇ。しょうがない。それでもいいから、くれ」というような、先程まで弱々しい少年のようだったのが、急に態度を変えてきた。
私はひっこみがつかなくなり、その小銭を全部あげてしまった。
一応、空港までの電車賃くらいは他の財布に入れて持っていたから助かったが、最後の最後に、もやもやした気分が残った。

それでも、公園の中の柳のような木は風に揺れて、葉がキラキラ光ってまぶしかった。
このちょっと苦い気持ちや、このキラキラした光や風の匂いを、いつまでも覚えていたい。
その時なぜか、またいつかこの街へ戻ってくるという確信みたいなものが、あった。

2年後の今、また2ヶ月後にパリに行くことになった。
今度はどんな出来事が待っているのだろう?